『クーデターと情報操作』
偶然見たテレビ放送、南米ベネズエラのクーデターのドキュメント番組。実はこの出来事自体を知らなかったが、思わず引き込まれてしまった。
2002年4月発生したクーデターは2日後大統領が復帰して結果的に失敗に終わった。興味深かったのは、クーデターの一時的な成功とその巻き返しがいずれも情報戦によるものだったことだ。

あらましは次のようなことらしい。ベネズエラのテレビ局は国営放送を除き、民放はすべて反大統領派が支配していた。豊富な石油資源を持ちながら貧困から脱しきれないベネズレラで、貧困層を基盤にする大統領と、石油を支配する富裕層の対立が多分原因だろうと勝手に推測した。さらにはその背景には米国の影も感じられる内容だった。

反大統領派は首都の大通りに終結させた民衆を、タイミングを見て民放放送を通じて扇動し大統領官邸を包囲させる。この時点で国営放送は反大統領派の手によりその機能を停止させられており、大統領は情報を発信できなくなってしまっている。その一方で民放放送では大統領は辞任したと報じる。実際には大統領は軍に拘束され、副大統領始め大臣たちも逃亡若しくは拘束されたのだが。
クーデター成功直後、その首謀者たちと民放のキャスターと思われる人物が自分たちの放送を通じ、首謀者とキャスターが組んで、事実と異なる内容をオンエアーして成功したことを得々と語っている。事実成功したのだ。(直後に当事者が、いわばでっち上げで成功したなどと裏話を放送するなど日本的には信じがたいことだが)

逃げ延びた大統領派は、残された一部のケーブルテレビを使ってこれはクーデターであり、大統領は辞任していないことを流す。大統領を支持する国民は終結し大統領官邸を取り囲んだ。暫定政府を樹立した反大統領派は一夜にしてその立場を逆転させられ、大統領警護隊に拘束されるのである。

しかしいまだ状況は不安定、大統領自身どこかで拘束されているが、情報が無い。集まった大臣たちは直ちに国営放送の機能回復を図る。ドキュメントによれば唯一回復した中継車を通じて事態を掌握したことを放送、軍に対しても大統領の下への集結を呼びかける。民放放送ではこうした事態に一切触れず、暫定政府が掌握していることを流し続けている。
翌日未明、大統領を拘束していた軍が大統領を官邸に送り届け、クーデターは完全に失敗した。
反大統領派はまず国営放送の機能を停止し、偽情報を放送し、クーデターを成功させる。大統領派はケーブルテレビを使い、事態を知らせる。さらに官邸を掌握した後、まず国営放送の機能を回復させ、国民に現状を知らせようとする。
ドキュメントで見る限り、銃撃戦は全く見られない。そこにあるのは放送を通じ国民の支持を得るための情報戦だった。ただし流される情報がすべて事実かどうかは別物。
市民の側は情報を読み取る目や耳を要求されるが、日常あふれる情報の中にいて、読み取ることは実に至難のことには違いない。

官邸に戻った大統領は会見に臨むがマイクが無い。「マイクも持っていったのか」との声が、印象的だった。


2004/01/24(Sat)



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